相続では、故人の意思を尊重するために遺言が用いられますが、遺言によって相続人の生活が脅かされないよう、法律で「遺留分」という最低限の取り分が定められています。
2019年7月の民法改正により、遺留分制度には大きな変更がありました。とくに重要なのが、旧制度の「遺留分減殺請求」から、現在の「遺留分侵害額請求」へと仕組みが変わった点です。
この記事では、遺留分侵害額請求権の基本・旧制度との違い・計算方法・期限・典型ケースをわかりやすく解説します。
📚 遺留分の基本については別記事で解説しています:遺留分とは?トラブルを防ぐために知っておきたい基礎知識
遺留分とは?誰にどれだけ認められるのか

遺留分とは、一定の相続人に保障された最低限の取り分のことです。故人が遺言や生前贈与で財産を処分しても、遺留分を侵害された相続人はその侵害額の支払いを請求できます。
遺留分が認められる人
- 配偶者
- 子(代襲相続人を含む)
- 直系尊属(父母):子がいない場合のみ
※ 兄弟姉妹には遺留分はありません(民法1042条)。
遺留分の割合
| 相続人の構成 | 遺留分の合計割合 |
|---|---|
| 配偶者+子が相続人 | 1/2 |
| 配偶者のみ・子のみ | 1/2 |
| 直系尊属のみ | 1/3 |
これは、相続財産に対する「遺留分権利者全体の合計割合」です。各人の遺留分は、これを法定相続分で割って計算します。
遺留分侵害額請求権とは(現行制度の基本)

2019年7月1日以降に発生した相続について適用される制度です。遺留分が侵害された相続人は、金銭で遺留分相当額を請求できる権利を持ちます。これを「遺留分侵害額請求権」といいます。
現行制度のポイント
- 対応手段は金銭請求のみ
- 不動産や株式そのものを取り戻すことはできない
- 相手方(受贈者・受遺者)に対して請求する
- 請求の方法は通知書(内容証明郵便など)が一般的
- 金銭の支払い方法は当事者間の協議で定める
つまり、現行制度は「物や権利を取り戻すものではなく、侵害された分を金銭で補填する制度」に変わりました。
旧制度との違い|遺留分減殺請求との決定的な差

2019年以前の遺留分制度は、「遺留分減殺請求」という性質の異なる制度でした。
旧制度:減殺請求 → 物権的効果(共有化)
旧制度では、遺留分が侵害されている場合、対象の財産を「取り戻す」ことが可能でした。不動産の場合は強制的に共有状態が発生するという問題点がありました。
当時の問題点
- 受遺者が住んでいる不動産が突然共有になる
- 共有解消のために売却・分割が必要
- 実務が非常に複雑になる
- 受遺者とのトラブルが起きやすい
現行制度:侵害額請求 → 金銭債権のみ
民法改正により、遺留分権利者は金銭での補填を請求する権利だけを持つことになりました。
改善点
- 不動産の共有化が発生しない
- 金銭支払いで解決するため実務が整理しやすい
- 財産管理のトラブルが減少
- 第三者にも分かりやすく、法的安定性が高い
このように、現行制度は実務負担を軽減し、紛争を減らすことを目的に設計されています。
遺留分侵害額の計算方法

遺留分侵害額は次のように算出します。
- 相続財産(遺産)を確定する:現金・預貯金・不動産・有価証券などを評価
- 特別受益(生前贈与)を加算する:原則、死亡前10年以内の贈与が対象(例外あり:通常の贈与・生活費は除外)
- 債務を控除する:借金や未払金などを差し引く
- 遺留分の割合を乗じる:上記表のとおり1/2または1/3
- すでに受け取っている財産を控除する
この結果が「遺留分が侵害されている金額=請求できる金額」となります。
📌 遺留分(10年)と相続税の生前贈与加算(3→7年)は別制度
遺留分では「原則・死亡前10年以内の生前贈与」が算入対象となりますが、相続税の生前贈与加算ルールはまったく別の制度です。
従来、相続税では「死亡前3年以内の贈与」が加算されていましたが、令和5年度改正により、加算期間が段階的に7年へ拡大することになりました。
相続税での主な改正点
- 2024年1月1日以降の贈与から、加算期間が従来の3年から段階的に延長
- 2027〜2030年に相続発生:「2024年1月1日〜死亡日」までの贈与が一括加算
- 2031年以降の相続:「死亡前7年以内」の贈与が対象
- 4〜7年前の贈与のうち100万円までは加算しない経過措置あり
このように、遺留分(10年ルール)と相続税(3年→7年ルール)は目的・計算方法・対象期間のすべてが異なる点を押さえておきましょう。
遺留分侵害額請求には期限がある
遺留分侵害額請求権には「時効」があります。
- 侵害を知った時から1年
- 相続開始から10年
どちらか早い方で時効となります。「遺留分を請求するなら早めに動く必要がある」のはこのためです。
遺留分侵害額請求の一般的な流れ
- 相続財産の調査
- 生前贈与の確認
- 遺留分計算
- 相手方へ意思表示(通知):内容証明郵便など
- 金額や支払い方法の協議
- 必要に応じて調停・訴訟へ(弁護士が担当)
請求は「相手方に意思表示が到達する」ことで効力を持ちます。期限内に確実に通知することが重要です。
📌 法的代理や交渉、訴訟・調停は弁護士の業務範囲です。当事務所では、相続財産の調査・遺留分計算・通知書の文面整理など、判断材料の整理段階からサポートします。
遺留分侵害額請求が利用される典型例
- 特定の相続人に全財産を相続させる遺言があった
- 内縁関係や第三者に多くの財産を遺贈する遺言があった
- 一部の子だけに多額の生前贈与があった
- 家業を継ぐ者に不動産が集中している
こうした場合、他の相続人が遺留分侵害額請求を検討することが多くなります。
まとめ|現行制度は「金銭で調整する」仕組み

遺留分侵害額請求制度は、旧制度の複雑さを解消し、金銭での解決を原則とするシンプルな仕組みに改められました。
意識したいポイント:
- 遺留分があるのは「配偶者・子・直系尊属」のみ(兄弟姉妹はなし)
- 現行制度は金銭請求のみ。不動産そのものは取り戻せない
- 侵害を知ってから1年、相続開始から10年で時効
- 遺留分の計算と相続税の生前贈与加算ルールは別物
- 調停・訴訟は弁護士の業務範囲
遺留分が問題になりそうな場合、早めに状況を整理することが大切です。Kanade行政書士事務所でも、相続財産調査・遺留分の概算試算・状況整理を承っています。
よくある質問
寄与分とはどのような制度ですか?
被相続人の財産の維持・増加に特別な貢献(療養看護・事業の手伝いなど)をした相続人が、法定相続分に加えて取り分を主張できる制度です。
介護をした相続人は必ず寄与分が認められますか?
寄与分が認められるには「特別の貢献」であることが必要で、日常的な世話程度では認められないことも多いです。証明には介護記録・日記・領収書などの客観的な証拠が重要です。
寄与分の主張はどのように行いますか?
遺産分割協議の中で他の相続人に主張します。合意できない場合は家庭裁判所の遺産分割調停で認定を求めます。金額の算定が複雑なため、専門家への相談をおすすめします。

