「全財産を長男に渡す」という遺言書があっても、他の家族は何ももらえないのでしょうか?そのような場合に登場するのが遺留分という制度です。
遺留分は相続トラブルの原因になりやすい仕組みでもあります。遺言書を作成する方も、相続人になる方も、基本知識として押さえておきましょう。
遺留分とは

遺留分とは、一定の相続人が最低限受け取ることができる財産の割合のことです。民法で定められており、遺言書の内容であっても侵害することはできません。
被相続人(亡くなった方)が全財産を特定の人だけに遺贈する遺言書を残していても、遺留分を持つ相続人は、侵害された分を金銭で請求できます(遺留分侵害額請求)。
遺留分を持つ相続人・持たない相続人

| 相続人 | 遺留分の有無 |
|---|---|
| 配偶者 | あり |
| 子(直系卑属) | あり |
| 親・祖父母(直系尊属) | あり(子がいない場合) |
| 兄弟姉妹 | なし |
⚠️ 兄弟姉妹には遺留分がない点は重要です。子も直系尊属もいない夫婦の場合、配偶者にすべて相続させる遺言を残せば、兄弟姉妹からの遺留分請求は受けません。
遺留分の計算方法

遺留分の割合は次のとおりです。
- 直系尊属のみが相続人の場合:相続財産の3分の1
- それ以外の場合(配偶者・子が相続人に含まれる):相続財産の2分の1
具体例:相続財産6,000万円、相続人が配偶者と子2人
- 遺留分の総体:6,000万円 × 1/2 = 3,000万円
- 配偶者の遺留分:3,000万円 × 1/2(法定相続分)= 1,500万円
- 子1人あたりの遺留分:3,000万円 × 1/4 = 750万円
遺留分侵害額請求とは

遺留分が侵害されている場合、相続人は遺留分侵害額請求権を行使できます。以前は「遺留分減殺請求」という名称でしたが、2019年の法改正により現在の名称に変わりました。
請求を受けた側は、現物ではなく金銭で支払う義務があります(旧制度では現物返還の場合もありました)。これにより、不動産が共有状態になるトラブルが減少しました。
遺留分侵害額請求の手順
① 内容証明郵便で請求の意思表示をする
まず、遺留分を侵害している相手方に対して「遺留分侵害額請求権を行使する」旨の意思表示を内容証明郵便で通知します。この意思表示は「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年以内」に行わなければなりません。1年を超えると時効によって権利が消滅します(相続開始から10年でも消滅)。
② 当事者間で協議する
請求後は、当事者間で侵害額について話し合います。遺留分は金銭での支払いを請求する権利であり、不動産そのものの共有持分を求めることは原則できません。話し合いで金額が合意できれば、合意書を作成して解決します。
③ 協議不成立なら調停・訴訟
話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停でも解決しない場合は民事訴訟(地方裁判所)に移行します。この段階からは弁護士の業務範囲となります。
請求の時効
- 相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年
- 相続開始から10年(いずれか早い方)
遺留分の放棄とは

遺留分は権利者が自ら「放棄」することができます。ただし、相続開始前と相続開始後では手続きが異なります。
相続開始前の遺留分放棄(生前放棄)
相続開始前の遺留分放棄は、家庭裁判所の許可を得て初めて有効となります(民法1049条1項)。「本人の自由意思によるものか」「放棄の見返り(代償)があるか」が審査されます。親から生前贈与を十分に受けたため他の相続人との均衡上放棄する、といった場合に利用されます。
相続開始後の遺留分放棄
相続が開始した後は、家庭裁判所の許可は不要です。遺留分権利者が請求しなければ権利を行使しないことになり、事実上の放棄となります。「遺言書の内容を尊重したい」「家族の仲を壊したくない」という気持ちから請求を見送るケースもあります。ただし、時効(知った時から1年)には注意が必要です。
遺留分を考慮した遺言書の作り方
遺留分のトラブルを防ぐためには、遺言書を作成する段階から遺留分を意識した設計が重要です。
① 各相続人の遺留分を計算する
遺言書を作成する前に、相続人全員の遺留分を試算します。「この内容で遺言書を作ると、誰が遺留分侵害を主張できるか」を事前に把握することが大切です。
② 遺留分相当額を確保する
特定の相続人に全財産を集中させたい場合でも、他の相続人の遺留分相当額を生命保険の受取人指定や生前贈与で事前に確保する方法があります。これにより、遺言書の内容を実現しながら遺留分争いを防ぐことができます。
③ 付言事項で意図を説明する
なぜその分配にしたのかを遺言書の付言事項で丁寧に説明することで、感情的な対立を和らげる効果があります。「長男に多く渡す理由は、長年の介護への感謝から」といった言葉が、家族の納得につながることがあります。
専門家のサポート範囲
📌 当事務所では、遺留分を考慮した遺言書の文案作成・内容整理を承っています。一方、調停・訴訟・交渉代理は弁護士の業務範囲です。紛争性が出てきた段階では、連携先の弁護士へつなぎます。
まとめ

遺留分のポイントを整理します。
- 遺留分は配偶者・子・直系尊属に認められる(兄弟姉妹はなし)
- 割合は原則1/2、直系尊属のみの場合は1/3
- 請求は金銭でのみ(2019年改正後)
- 時効は知った時から1年・相続開始から10年
- 遺言書作成時に遺留分を意識した設計でトラブルを予防できる
「家族が揉めない遺言書を作りたい」「自分の場合の遺留分が気になる」という段階でもお気軽にご相談ください。
よくある質問
遺留分はどのくらいの割合ですか?
相続財産の全体に対して、配偶者・子(直系卑属)が含まれる場合の遺留分は2分の1、直系尊属(親・祖父母)のみが相続人の場合は3分の1です。兄弟姉妹には遺留分がありません。各相続人の遺留分は、この割合に法定相続分を掛けて計算します。
遺留分を請求する期限はありますか?
遺留分侵害額請求権は、相続の開始と遺留分侵害を知った時から1年で時効消滅します。相続開始から10年が経過した場合も消滅します。請求は内容証明郵便などで意思表示するだけで効力が生じます。
遺言書があれば遺留分の請求は防げますか?
遺言書があっても遺留分の請求自体は防げません。遺留分は法律で守られた権利であり、遺言書の内容が「全財産を特定の人に」というものでも、遺留分を侵害された相続人は請求できます。トラブル防止のためには、遺言書作成時から遺留分を考慮した配分を検討することが重要です。

