相続手続きで金融機関が最も厳しく確認するのは、「相続人が誰かを正しく確定できるか」という点です。実務では、相続関係説明図そのものより、戸籍の収集漏れ・不整合が原因で銀行の解約や預金払戻しが止まってしまうケースが圧倒的に多くあります。
2024年から始まった戸籍の広域交付制度により戸籍収集は便利になりましたが、それでも漏れや欠落があると手続きは必ず止まります。この記事では、実際にあった手続き停止の事例と、広域交付制度を含めた正しい戸籍収集のポイントを解説します。
【実例①】出生から死亡までの戸籍が揃わず、銀行手続きが中断したケース

あるご家庭では、被相続人の最新戸籍は取得していましたが、次が不足していました。
- 改製原戸籍
- 除籍謄本
- 婚姻前の本籍地の戸籍
銀行の判断は次のとおり。
「出生から死亡までの連続した戸籍が確認できないため、相続人を確定できません」
このため、過去の本籍地を再調査し、追加取得することとなり、手続きが数週間遅延する結果となりました。
銀行が重視するのは「相続人が確定できる戸籍が揃っているか」

金融機関は、「戸籍が連続しているか」を最も重視します。次の情報が戸籍で正しく追えなければ、手続きは必ず止まります。
- 被相続人の出生〜死亡までの戸籍
- 父母の生存・死亡
- 兄弟姉妹の死亡の有無
- 甥・姪の代襲相続の有無
- 転籍による本籍地の変遷
つまり、「最新戸籍のみ」では不十分で、「すべての履歴」がつながる戸籍が必要なのです。
よくある収集漏れのパターン
- 転籍・改製前の戸籍が不足:本籍地を変更した場合、旧本籍地の戸籍も必要
- 改製原戸籍の取得漏れ:平成6年の戸籍法改正前のもの
- 兄弟姉妹相続で親の戸籍漏れ:被相続人の兄弟姉妹を特定するため
- 代襲相続人の戸籍漏れ:先に亡くなった相続人の子の戸籍
戸籍の広域交付制度(2024年)でできること・できないこと

2024年3月から始まった「戸籍の広域交付制度」により、相続の戸籍収集は以前より格段に便利になりました。ただし、すべての戸籍が広域交付で取れるわけではありません。
広域交付で請求できるもの
全国どこの市区町村窓口でも取得可能です。
- ✅ 現在戸籍(戸籍謄本・抄本)
- ✅ 除籍謄本・除籍抄本
- ✅ 改製原戸籍(除籍扱いのもの)
とくに過去の本籍地が遠方にあり、郵送を何度も行っていたケースでは非常に有効です。
広域交付で請求できないもの(従来どおり本籍地の役所への請求が必要)
- ❌ 戸籍の附票(住所の移動履歴)
- ❌ 住民票の除票
- ❌ 一部自治体で残る「紙戸籍」(データ化されていないもの)
- ❌ 明治・大正期まで遡る古い戸籍でデータ化されていないもの
そのため、相続人の住所の移動や死亡の確認には「附票・除票」の不足が特に起こりやすいので注意してください。
広域交付を使っても「つながらない」ことがある理由
広域交付は便利ですが、次のような場合、どれだけ請求しても戸籍が繋がらないことがあります。
- ✓ 婚姻前の戸籍が別の自治体にあり、広域交付で出てこない
- ✓ 明治〜昭和期の戸籍が古く、データ未登録
- ✓ 附票がないため、転籍先が追えない
- ✓ 兄弟姉妹の死亡情報が戸籍上で確認できない
- ✓ 「除籍扱いされていない改製原戸籍」が広域交付の対象外
【実例②】兄弟の死亡確認ができず、代襲相続の判定が保留になったケース
ある相続では、被相続人に兄弟が3名いました。そのうち1名はすでに死亡していましたが、死亡年月日の記載を確認できる戸籍が不足していました。
銀行の回答は、
「兄弟の死亡が確認できません。甥・姪が相続人となる可能性があるため、続きの戸籍が必要です」
ここから次の戸籍を追加取得することになりました。
- 兄弟の出生〜死亡の戸籍
- 本籍移動の履歴(戸籍附票)
- 必要に応じて甥・姪の現在戸籍
結果、3つの金融機関の手続きが1か月以上ストップしました。
よくある戸籍収集の間違い

① 現在戸籍だけ取得して安心してしまう
最新戸籍には「昔の情報」が載っていません。出生から死亡までさかのぼる必要があります。
② 転籍のたびに戸籍を取りこぼす
古い本籍地の除籍謄本は必ず必要です。
③ 父母の生存状況を確認していない
兄弟姉妹が相続人になるかどうかに直結します。被相続人に子がない場合、父母の生存確認が不可欠です。
④ 兄弟姉妹の死亡確認が不足
甥・姪の代襲相続に影響します。
⑤ 広域交付で取得した戸籍だけで「全部揃った」と思い込む
広域交付では取得できない戸籍が存在することを忘れずに。
戸籍収集のコツ
戸籍の収集漏れを防ぐためのポイント:
- 最新の戸籍から順に遡る:死亡時の戸籍を最初に取得し、そこから過去にさかのぼる。前本籍地が記載されているため、順に追える
- 改製原戸籍を忘れない:平成6年の戸籍法改正、昭和の改製など、制度変更時の戸籍も必須
- 兄弟姉妹相続は親の戸籍も:被相続人に子がいない場合、兄弟姉妹を特定するため親の出生〜死亡の戸籍も必要
- 代襲相続に注意:先に亡くなった相続人がいる場合、その方の出生〜死亡の戸籍と子の戸籍も必要
- 戸籍附票・除票も忘れずに:広域交付では取れないため、本籍地への個別請求が必要
まとめ|広域交付は便利だが「全部揃うわけではない」

広域交付制度により戸籍収集は楽になりましたが、次のような漏れがあると金融機関の手続きは必ず止まります。
- 広域で請求できない戸籍が抜けている(附票・除票など)
- 兄弟姉妹の死亡確認が不十分
- 転籍の履歴が途中で途切れている
- 婚姻前の戸籍が抜けている
相続で最も時間がかかるのは戸籍収集です。ここを正確に行うことで、銀行・不動産・保険・名義変更のすべてがスムーズになります。
不安がある場合は、専門家に確認を依頼することで手続き遅延や二度手間を防ぐことができます。Kanade行政書士事務所でも、戸籍の取り寄せから相続関係説明図・法定相続情報一覧図の作成までトータルでサポートしています。
よくある質問
疎遠な相続人と遺産分割協議をしなければならない場合、どう進めればよいですか?
書面(手紙・内容証明郵便)での連絡から始め、遺産分割協議書への署名を依頼します。直接交渉が難しい場合は行政書士・弁護士に代理・仲介を依頼する方法もあります。
疎遠な相続人の住所がわからない場合はどうしますか?
戸籍の附票を取得すると現住所が確認できる場合があります。それでも不明な場合は家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる方法があります。
疎遠な相続人が署名を拒否した場合、手続きはできませんか?
全員の合意がないと遺産分割協議は成立しません。一人でも拒否する場合は家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。調停でも合意できなければ審判で解決することになります。

