親の介護が始まると、日々の暮らしの中で「今できることを精一杯に」という気持ちが先に立ち、将来のことを考える余裕がなくなるものです。
けれども、介護の時間は相続のことを静かに見つめ直す貴重な時期でもあります。親の希望を聴ける今だからこそ、家族で話せること、整理できることがあります。
この記事では、宇都宮で相続や遺言のサポートを行う行政書士として、介護をきっかけに始めたい「3つの備え」と、介護と相続の関係について、わかりやすくお伝えします。

備え①「心の備え」|親の思いを聴く時間をつくる

介護が始まると、家族の会話はどうしても「手続き」や「介助方法」に偏りがちです。けれども、その中でふとした瞬間に、親が「この家をどうしてほしい」「誰かに残したいものがある」と口にすることがあります。それは、相続の核心に触れる大切な言葉です。
相続の準備というと書類や財産を思い浮かべますが、最初の一歩は「親の思いを聴くこと」。それが、後の手続きで迷わないための「心の備え」になります。
家族の中で意見が分かれても構いません。「お母さんはこう考えていたよね」と言える記憶が、いずれ皆をつなぐ支えになります。
備え②「形の備え」|書類と情報を整理しておく

介護の過程では、医療費の支払いや介護サービス契約など、自然と多くの書類が発生します。その流れで、相続時に必要になる資料も一緒に整理しておくと、のちの負担を大きく減らせます。
たとえば次のような情報は、早い段階で共有しておくのがおすすめです。
- 預貯金・不動産などの財産情報
- 年金・保険・医療費などの関係書類
- 親名義の契約(公共料金・携帯電話など)
- 遺言書やエンディングノートの有無
金融機関や行政窓口での相続手続きには時間を要するため、「どこに何があるか」を整理しておくことが重要です。書類を整える作業は、事務的なものというより、親の人生を見つめ整える「貴重な時間」でもあります。
備え③「制度の備え」|家族を守る仕組みを整える

介護が長期化する場合、判断能力が低下することを見越して、法的な仕組みを早めに整えておくことも大切です。次の3つは特に有効です。
- 公正証書遺言の作成:親の思いを正式な形で残すことで、相続後のトラブルを防ぐ。自筆証書遺言と公正証書遺言の違いもあわせて確認を。
- 任意後見契約:元気なうちに、将来の財産管理を託す人を決めておく制度。判断能力が低下した後にも、信頼できる人が支援できます。
- 家族信託:子どもが財産を預かり、親に代わって管理できる仕組み。介護費用の支払いにも柔軟に対応できます。
「きちんと準備しておくこと」が、家族間での話し合いをスムーズに進める基盤になります。
介護と相続は密接に関係しています
親の介護が始まると、「介護の負担」と「相続の配分」という二つの問題が同時に浮上します。どちらも家族にとって繊細なテーマで、話題にしにくいという方も少なくありません。けれども、介護と相続は密接に関係しているため、早めに両方を視野に入れておくことで、後の混乱を防げます。
寄与分と特別寄与料
- 寄与分:特定の相続人が長期間介護を担うなど、被相続人の財産維持に「特別の寄与」をした場合に、相続分を上積みできる制度
- 特別寄与料:相続人以外の親族(嫁・婿・甥姪など)が無償で療養看護等を行った場合、相続人に対して金銭請求できる制度(2019年改正で新設)
こうした制度は、介護の事実と記録があってこそ活きるものです。介護日誌や領収書など、貢献を示す資料は意識して残しておきましょう。
介護をきっかけに見直したい3つの備え
親の介護が始まったタイミングは、相続準備を進める良い機会でもあります。とくに次の3つを見直すことをおすすめします。
① 財産の把握
介護費用の見通しを立てるためにも、親御様の財産を正確に把握することが第一歩です。通帳・保険証券・不動産登記簿などを整理し、収支の見通しを家族で共有しましょう。
② 意思表示の書面化
判断能力が低下すると、遺言書の作成や財産の処分ができなくなります。元気なうちに、エンディングノート・遺言書・任意後見契約などの形で意思を書面化しておきましょう。
③ 介護記録の保存
介護の事実を後に証明できるよう、介護日誌や支出記録を残しておきましょう。寄与分・特別寄与料の主張にも役立ちます。
介護を担う家族の声に耳を傾ける
介護を中心的に担っている家族がいる場合、その労力は他の家族からは見えにくいものです。結果として、相続時に「介護を手伝わなかった家族と同じ配分では納得できない」という声が出てくることがあります。
こうした事態を防ぐため、介護が始まった段階で家族会議を開き、次のような視点を共有しておくことが大切です。
- 誰がどんな役割を担うか(主介護者・金銭面・定期訪問など)
- 介護費用は誰がどのように負担するか
- 将来の相続で介護への貢献をどう評価するか
まとめ|今だからできる、家族の未来の整え方

介護の時間は、決して「待つだけの時間」ではありません。家族で向き合い、これからの暮らしを整えるための大切な準備の期間でもあります。
相続の備えとは、亡くなった後の手続きだけを意味するものではなく、財産の名義・預貯金の引き出し・医療費の清算・不動産の管理など、ご家族が安心して生活を続けるための「生活の引き継ぎ」でもあります。介護をきっかけに今できる整理や確認を少しずつ進めておくことで、いざという時に慌てることが少なくなります。
Kanade行政書士事務所でも、介護期のご家族からの相続相談を承っています。書類の整え方だけでなく、「どこから始めたらいいのか」「誰に何を伝えておけばいいのか」といった暮らしの目線からのご相談にも対応しています。
よくある質問
介護を一人で担っていた場合、相続で考慮されますか?
はい。長期間にわたって被相続人の財産維持や生活に「特別の寄与」をしていた場合、「寄与分」として相続分を増やせる可能性があります。介護日誌・領収書・通院記録など、貢献を示す資料を残しておくことが大切です。
相続人ではない嫁や孫が介護をした場合、何か請求できますか?
2019年7月の民法改正で「特別寄与料」の制度が新設されました。法定相続人以外の親族(嫁・婿・甥姪など)が無償で療養看護等を行い、被相続人の財産維持に貢献した場合、相続人に対して金銭請求ができます。請求には期限(相続を知ったときから6か月以内、相続開始から1年以内)があるため早めの対応が必要です。
親の判断能力が低下する前に、何を準備しておけばよいですか?
判断能力が低下すると、遺言書作成・任意後見契約・財産処分などができなくなります。元気なうちに「公正証書遺言の作成」「任意後見契約」「家族信託」のいずれか、もしくは組み合わせを検討しておくと安心です。介護をきっかけに、親御様と話し合うタイミングをつくってみてください。

