「父の仏壇から手書きの遺言書が出てきた」――突然のことで、どうすればいいかわからず相談にいらした事例をご紹介します。
自筆証書遺言は、家庭裁判所での「検認」を経てから手続きに使う必要があります。封がされている(封印のある)場合は、勝手に開封すると過料の対象になることもあります。当事務所が検認の流れをご説明し、その後の相続手続きまで一貫してサポートした実例をお伝えします。
ご相談の背景

相談者は50代男性(仮名:佐藤様)。栃木県内在住で、半年前にお父様を亡くされました。遺品整理中に仏壇の奥から封筒が出てきました。
封筒には封印(のり付け・封緘)がされていなかったため、佐藤様は中身を取り出し、便箋を読まれました。お父様直筆の遺言書で、「自宅不動産と預貯金はすべて長男(佐藤様)に相続させる」という内容が記載されていました。
読み終えてから「この遺言書をそのまま使って手続きできるのか」「検認が必要だと聞いたことがある気がする」と気になり、当事務所にご相談くださいました。しかし、この遺言書をそのまま使って手続きできるのか、弟への対応はどうすればいいのか、まったくわからない状態でご来所されました。
遺言書を発見した時点でお父様の死亡から3か月以上が経過していましたが、遺産には相続税がかかるほどの財産はなく、弟も遺言の内容に概ね同意していたため、比較的スムーズに進められる見込みでした。
「開封」と「検認」は別の話
本件のように、封印のない封筒に入っていた遺言書を中身まで読まずに専門家に相談されたケースは少なくありません。実は法律上、開封のルールと検認のルールは別のものです。
開封禁止のルール(民法1004条3項)
「封印のある」遺言書は、家庭裁判所において相続人またはその代理人の立会いがなければ開封できません。違反した場合、5万円以下の過料の対象になります(民法1005条)。
※「封印」とは、のり付け・テープ止め・封緘印などで封がされている状態を指します。封筒に入っているだけで何もとめられていない場合は、開封禁止の対象外になります。
検認のルール(民法1004条1項)
封の有無にかかわらず、自筆証書遺言を発見したらすべて検認手続きが必要です(法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用していた場合を除く)。実務上、検認を経ていない遺言書は、金融機関の解約手続きや法務局の相続登記で受け付けてもらえません。
📌 まとめると:
・封印あり → 開封禁止+検認必要
・封印なし → 開封自体は違法ではないが、検認は必要
自筆証書遺言の検認とは

検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在と現状を公的に確認する手続きです。
検認の目的
- 遺言書の存在を相続人に知らせる
- 遺言書の形状・状態を確定する
- 偽造・変造を防ぐ
⚠️ 検認は、遺言書の有効・無効を判断するものではありません。形式不備がある場合でも、検認は行われます。
検認の申立てから完了までの流れ
- 家庭裁判所への申立て:被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所
- 必要書類の準備:申立書・戸籍謄本・遺言書
- 検認期日の通知:相続人全員に通知(欠席しても手続きは進む)
- 検認期日:裁判所の書記官の前で遺言書を確認・調書作成(封印がある場合はここで開封)
- 検認済証明書の交付:後日、検認済の記載がされた遺言書が返される
申立てから検認期日までは1〜2か月程度かかります。
本件で当事務所が担当した業務(約3か月)

① 制度のご説明と前段階の整理(約2週間)
検認申立ては相続人本人または司法書士が行う手続きですが、当事務所では制度の説明と必要書類の整理をサポートしました。佐藤様ご自身で申立てが進められるよう、必要書類のリスト化・スケジュール感のご説明を行いました。
② 戸籍・除籍謄本の収集(約3週間)
検認申立てに必要な戸籍(お父様の出生から死亡まで・相続人全員の戸籍)を収集。同時に相続関係説明図を作成し、相続人が佐藤様と弟の2名であることを確認しました。
③ 検認期日への対応(検認申立てから約1〜2か月後)
家庭裁判所から相続人全員に検認期日の通知が届きます。当日は佐藤様と弟が出席し、無事に検認が完了しました。検認済証明書の取得もスムーズに進みました。
④ 遺産分割手続きのサポート(約4週間)
検認済みの遺言書を使って、預貯金の解約・名義変更手続きを進めました。不動産の相続登記については提携司法書士が担当しました。
📌 行政書士費用(戸籍収集・相続関係説明図・遺産目録作成・金融機関手続きサポート):10万円〜15万円程度(実費含む)
本件で重要だったポイント
今回の封筒は封印(のり付け・封緘)がされていなかったため、中身を読まれた行為自体は過料の対象にはなりませんでした。もし封印があれば、たとえ家族であっても勝手に開封すると過料の対象になっていた可能性があります。
そして、より重要なポイントは、「読んでしまった後で金融機関や法務局に持ち込まなかった」ことです。自筆証書遺言は封の有無に関わらず検認が必須で、実務上、検認を経ていない遺言書では金融機関や法務局の手続きを進められません。佐藤様が「検認が必要かも」と気づいて当事務所に相談くださったことで、適切な順序で手続きを進められました。
今回は弟さんが遺言の内容にほぼ同意されていたため、弟さんにも検認の意味や流れを丁寧にご説明することで、スムーズな協力を得ることができました。
📌 遺言の内容に争いがある場合は弁護士にご相談ください。
検認後の相続手続きの流れ
検認が完了したら、遺言書の内容に沿って相続手続きを進めます。主な手続きは以下のとおりです。
- 相続人調査・財産調査:遺言書に記載のない財産も含めて全体像を把握
- 遺言執行者の就任:指定がある場合は就任を承諾
- 金融機関での手続き:遺言書と検認済証明書を提示して解約・名義変更
- 不動産の登記:司法書士に依頼して相続登記
- 遺贈の実行:相続人以外への遺贈がある場合
遺言書があっても、相続人全員の合意があれば異なる分け方をすることも可能です。ただし遺言執行者や受遺者がいる場合は、その同意も必要になります。
同じ状況の方へ

仏壇や引き出しから遺言書らしきものが出てきたら、まずは「封の有無を確認」することがポイントです。
- 封印(のり付け・封緘)がされている場合:絶対に開封せず、家庭裁判所での検認時に開封してください。勝手に開けると5万円以下の過料の対象になります
- 封がされていない場合:中身を見ても法的問題はありませんが、内容を読んだ後の対応が重要です。金融機関や法務局に直接持ち込まず、まず行政書士や司法書士に相談してください
いずれの場合も、自筆証書遺言は検認手続きを経てからでないと、相続手続きには使えません。
気をつけたいポイント
- 封印のある遺言書は開封しない:過料の対象(5万円以下)
- 封の有無に関わらず検認は必要:勝手に金融機関へ提出しても受理されない
- 紛失しないよう保管:検認手続きで必要
- 相続人全員に知らせる:隠さず早めに情報共有
- 早めに専門家へ相談:手続きに時間がかかるため
当事務所のサポート範囲
当事務所では次のサポートを承っています。
- 戸籍・除籍謄本の収集
- 相続関係説明図の作成
- 遺産目録の作成
- 遺産分割協議書の作成(合意がある場合)
- 金融機関の解約・名義変更手続きサポート
📌 検認申立書の作成代理は司法書士の業務範囲です。当事務所では、申立てに至るまでの戸籍収集・関係整理を担当し、申立書類の作成は提携司法書士と連携してご対応します。不動産登記も同様に司法書士、相続税申告は税理士へつなぎます。
「保管制度」の活用で検認が不要に
2020年7月から、法務局による自筆証書遺言書保管制度がスタートしました。生前に遺言書を法務局に預けている場合は、検認が不要になります。家族の手続き負担を大幅に減らせるため、これから自筆証書遺言を作成する方は保管制度の活用をおすすめします。
まとめ

本事例のポイントを整理します。
- 自筆証書遺言は「封印のある場合は開封禁止」「封の有無に関わらず検認必要」
- 封のない遺言書も中身まで読まず、まず専門家に相談
- 検認は遺言の有効性を判断する手続きではない
- 検認申立ては司法書士、戸籍収集・遺産分割協議書作成は行政書士で連携
- 保管制度を使えば検認が不要に(生前対策のおすすめ)
「自筆証書遺言らしきものが出てきたが、何から始めればよいか分からない」という方は、お気軽にご相談ください。状況を整理した上で、必要な手続きをご案内します。
よくある質問
自筆証書遺言を発見したらまず何をすればいいですか?
封がされている(封印のある)遺言書を勝手に開封すると、5万円以下の過料が科せられる場合があります(民法第1004条3項)。封の有無にかかわらず、自筆証書遺言は家庭裁判所での「検認」手続きが必要です。発見したら、まず専門家に相談のうえ、検認手続きを行ってください。
検認とは何をする手続きですか?
検認とは、家庭裁判所が遺言書の存在と現状を公的に確認する手続きです。遺言の内容が有効かどうかを判断するものではありません。検認を経ることで、遺言書を相続手続きに使用できるようになります。
遺言の内容に納得できない相続人がいる場合はどうなりますか?
遺言があっても、法律上の「遺留分」を侵害されている相続人は遺留分侵害額請求ができます。遺言の有効性の争いや遺留分問題については、弁護士にご相談ください。
※本事例は実際のご相談を参考に、個人情報を変更・匿名化したものです。

