遺言書を作成するときに出てくる「包括遺贈(ほうかついぞう)」と「特定遺贈(とくていいぞう)」。どちらも財産を誰かに遺すための方法ですが、法律上の意味や受け取る側の立場は大きく異なります。
たとえば「全財産の3分の1を長女に遺贈する」と書くのが包括遺贈、「自宅を長男に遺贈する」と書くのが特定遺贈です。一見似た表現ですが、包括遺贈の場合は受け取る側が相続人と同じ立場となり、負債(マイナス財産)も承継する点に注意が必要です。
この記事では、包括遺贈と特定遺贈の違い、包括遺贈のメリット・注意点、遺留分との関係、どんなときにどちらを選べばよいのかまで、行政書士の視点でわかりやすく整理します。
遺言書の中でよく出てくる「包括遺贈」とは

遺言書を作成するときに、「財産を誰に遺すか」という表現の中で「包括遺贈(ほうかついぞう)」という言葉が使われることがあります。
一見難しそうに聞こえますが、意味はシンプルです。
包括遺贈とは、財産の全部または一定の割合をまとめて遺すという方法のことです。
たとえば、次のような書き方が該当します。
「私の財産のすべてを妻〇〇に遺贈する」
「私の財産の3分の1を長男〇〇に遺贈する」
このように、「どの財産」という指定をせずに全体または割合で遺す形が「包括遺贈」です。
包括的に受け取る人を「包括受遺者」と呼びます。
特定遺贈との違いをわかりやすく整理

一方、「特定遺贈(とくていいぞう)」とは、特定の財産を指定して遺す方法です。
「宇都宮市の自宅土地を長女〇〇に遺贈する」
「足利銀行の預金〇〇円を次男〇〇に遺贈する」
このように、財産を特定して贈るのが特定遺贈です。
違いをまとめると次のようになります。
| 区分 | 包括遺贈 | 特定遺贈 |
|---|---|---|
| 内容 | 財産の全部または割合で遺す | 財産を個別に指定して遺す |
| 例 | 「全財産を妻に遺す」 | 「自宅を長男に遺す」 |
| 法的立場 | 相続人に近い地位を持つ | 相続人とは独立した立場 |
| 債務(借金) | 承継する | 承継しない |
| 登記・名義変更 | 相続登記と同様に可能 | 個別の登記・移転が必要 |
包括遺贈は、財産のすべてを引き継ぐイメージのため、遺言で指定された相続人に近い扱いを受けます。
一方、特定遺贈は「ある財産を譲る」行為に近く、他の相続人の承諾や登記手続きが必要なケースもあります。
包括遺贈の特徴と注意点

包括遺贈には、次のような特徴があります。
1. 相続人と同じように債務も引き継ぐ
遺言で「全財産を妻に遺贈する」とした場合、預貯金や不動産などのプラスの財産だけでなく、借入金などのマイナスの財産も一緒に引き継ぐことになります。
特定遺贈では債務は引き継がれませんが、包括遺贈では「全体を承継する」ため注意が必要です。
2. 相続登記などの手続きが簡略化できる
包括受遺者は相続人に準じた立場となるため、不動産登記の際も「遺贈による所有権移転登記」ではなく、「相続登記」として手続きを進められる場合があります。
そのため、相続手続き全体をスムーズに進めやすいというメリットもあります。
3. 他の相続人がいる場合は慎重な記載を
たとえば「全財産の3分の1を長男に包括遺贈する」とした場合、残りの3分の2は法定相続人に分配されることになります。
遺言書の内容によっては、法定相続分と重なったり、遺留分(最低限の取り分)との関係が複雑になることもあるため、配分を明確にしておくことが大切です。
どんなときに包括遺贈を選ぶとよいか

包括遺贈は、次のようなケースで有効に使えます。
-
相続人のうち、特定の人にすべての財産を託したい
-
財産の種類が多く、ひとつずつ指定するのが難しい
-
配偶者に一任したい場合
遺言書を作成するときに「全体を託す」という意思を明確にしたいときに適しています。
ただし、債務も含まれる点は事前に確認しておく必要があります。
包括遺贈を選ぶべきケース・避けるべきケース
包括遺贈が向いているのは、財産全体の割合で分けたい場合です。たとえば、「配偶者に3分の2、長男に3分の1を渡したい」といった設計では、包括遺贈が自然です。
一方、次のようなケースでは避けた方がよい場合があります。
- 借金が多い可能性がある:受遺者が負債も引き継ぐため慎重に
- 特定の財産を確実に渡したい:特定遺贈の方が明確
- 受遺者に負担をかけたくない:遺産分割協議への参加が必要
また、包括遺贈を受けた方が「受け取りたくない」と感じた場合、3ヶ月以内に家庭裁判所で放棄の手続きをする必要があります。特定遺贈のように単独で放棄することはできません。
包括遺贈の実務的な性質
包括遺贈は、「財産の3分の1をAさんに遺贈する」のように、割合や全部を指定する遺贈です。特定遺贈との最大の違いは、受遺者が相続人と同等の立場になることです。
このため、包括受遺者は次のような義務・権利も引き継ぎます。
- プラス財産だけでなく、マイナス財産(借金)も割合に応じて承継
- 遺産分割協議への参加権利・義務
- 相続放棄に準じた手続き(3ヶ月以内)を選択可能
- 遺産の管理義務
包括遺贈と遺留分の関係
包括遺贈を設計する際、忘れてはならないのが遺留分との関係です。配偶者・子・直系尊属には遺留分があり、包括遺贈によって遺留分を侵害すると、侵害された相続人は遺留分侵害額請求をすることができます。
遺留分を意識した設計例としては、次のような方法があります。
- 遺留分相当額を生前贈与で先に渡しておく
- 生命保険を活用して特定の相続人に財産を届ける
- 付言事項で配分の理由を説明し、理解を求める
Kanade行政書士事務所では、包括遺贈・特定遺贈の使い分けを含めた遺言書設計のご相談をお受けしています。ご家族の事情と財産構成を踏まえた最適な組み合わせを、ご一緒に考えていきます。
まとめ

包括遺贈は、遺言者の「全体を託す」という意思を反映できる一方で、相続人の立場や債務の扱いなど、法的な意味も大きい制度です。
遺言書を作成するときは、どの範囲を包括遺贈にするのか、特定遺贈との組み合わせをどうするのかを整理しながら、自分の想いが正確に伝わる内容にすることが大切です。
関連記事
遺言書の撤回・変更・訂正方法と注意点|宇都宮市の行政書士が解説
遺言書で財産を寄付したい|自治体・NPO法人への遺贈の手続きと注意点
よくある質問
包括遺贈と特定遺贈の違いは何ですか?
包括遺贈は「財産の1/2を遺贈する」のように全財産の割合で指定する遺贈です。特定遺贈は「○○の不動産を遺贈する」のように特定の財産を指定します。包括受遺者は相続人に近い権利・義務を負います。
包括遺贈を受けた場合、借金も引き継がなければなりませんか?
包括遺贈はプラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金の割合分)も引き継ぎます。負担が大きい場合は放棄することができます(相続開始を知った日から3か月以内)。
包括遺贈と相続の違いは何ですか?
相続は法律上の相続人が財産を引き継ぐことで、包括遺贈は遺言書によって相続人以外の人が財産の割合を引き継ぐことです。包括受遺者は相続人と同様の手続きに参加する必要があります。

