事業主にとって、事業と家族の関係は複雑に絡み合っています。事業用の財産と個人の財産が混在していたり、家族が事業に関わっていたり、あるいは事業の借入金に家族が保証人になっていたりするケースがあります。事業承継や相続を考えるとき、この「事業と家族の関係の整理」が重要なポイントになります。
事業財産と個人財産の分離
個人事業主の場合、事業で使っている財産(事業用口座・設備・車・不動産など)と、個人の財産(自宅・預貯金など)が混在しがちです。この状態のまま相続が発生すると、どこまでが事業財産でどこからが個人財産かを判断するのが難しくなります。
生前のうちに、以下の整理をしておくことをおすすめします。
- 事業用口座と個人口座を明確に分ける
- 事業用の不動産・設備を台帳に記録する
- 事業用財産の現在価値(概算)を把握する
- 借入金・保証債務の状況をリストアップする
家族が事業に関わっている場合
配偶者や子どもが事業を手伝っている場合、その貢献がどのように扱われるかを明確にしておくことが重要です。
特に、後継者となる子どもと、事業を継がない子どもの間の公平性は、相続トラブルの種になりやすいポイントです。事業を引き継ぐ子どもが事業財産を多く相続する一方で、他の子どもが少ない相続分しか受け取れないことへの不満が生じることがあります。
対策としては、次のような方法が考えられます。
- 遺言書で相続の方針を明確にする:後継者に事業財産を集中させ、他の相続人には金融資産や不動産で代償する旨を記載する
- 代償分割の準備:後継者が他の相続人に金銭を支払って事業財産を取得できるよう、資金を準備しておく
- 生命保険の活用:死亡保険金を代償資金として活用する(保険金は受取人固有の財産で遺産分割の対象外)
個人保証(経営者保証)の問題
中小企業の経営者の多くは、会社の借入金に個人保証(経営者保証)をしています。経営者が亡くなった場合、この個人保証は相続人に引き継がれる可能性があります。
相続人が事業を引き継がない場合でも、相続を単純承認すれば保証債務も相続することになります。多額の保証債務がある場合は、相続放棄や限定承認の検討が必要になることがあります。
経営者保証の解除については、金融機関との交渉が必要です。後継者への経営者保証の引継ぎを回避できるかどうかは、「経営者保証に関するガイドライン」の基準に沿って金融機関と協議することになります。
家族への情報共有の重要性
事業主が突然倒れたとき、家族が事業の状況(取引先・銀行口座・借入金・許認可など)をまったく把握していないと、その後の対応が混乱します。
エンディングノートや事業の概要書を作成し、家族と情報を共有しておくことが、いざというときの備えになります。
事業用不動産の相続と名義変更
事業で使用している土地・建物が事業主名義の場合、相続発生後に後継者への名義変更(所有権移転登記)が必要になります。
不動産の名義変更は司法書士の専門業務ですが、行政書士は遺言書の作成支援や遺産分割協議書の作成(弁護士・司法書士と連携)を通じて、事業用不動産の円滑な引継ぎをサポートします。
なお、事業主が存命中に後継者へ事業用不動産を生前贈与する場合は贈与税、売却する場合は譲渡所得税が発生します。税負担の軽減策については税理士にご相談ください。
「事業と個人の財産の混在」チェックリスト
事業承継・相続の準備として、以下の項目を確認しておきましょう。
| 確認項目 | 状況 |
|---|---|
| 事業用口座と個人口座が分かれているか | □ 分かれている □ 混在している |
| 事業用設備・車両の一覧を把握しているか | □ 把握済み □ 未整理 |
| 事業用不動産の登記名義を確認しているか | □ 確認済み □ 未確認 |
| 借入金・個人保証の一覧があるか | □ あり □ 未整理 |
| 売掛金・未収金の一覧があるか | □ あり □ 未整理 |
| 許認可の種類・更新期限を把握しているか | □ 把握済み □ 未確認 |
| 事業の概要書(取引先一覧・口座情報など)を作成しているか | □ 作成済み □ 未作成 |
未整理の項目が多いほど、いざというときに家族・後継者が困ることになります。エンディングノートや事業概要書にまとめ、定期的に更新しておくことをおすすめします。
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この記事を書いた人
特定行政書士 入江 紀子
栃木県・宇都宮市に拠点を置く相続・遺言・終活専門の行政書士事務所。難しい法律を分かりやすく伝えることを大切に、地域の方々の「想い」を形にするお手伝いをしています。

